レナ、乱入す偉そうに身を翻したマティウスは、何やら不思議な音を耳にした。ーーああぁあああ 「なん」 だ、まで云えず、マティウスは潰された。カエルさながらに。 イリアは爆笑し、アルカ兵も苦い顔で必死に笑いを噛み殺している。そもそも、あの不可思議極まりないキテレツな服装だ。 カエルさながらでは、正視に堪えない。 あー、なんかオレおっこった? レナはとりあえずクッションになってくれた物体に座ったまま、 「あ、ゴメン。カエル。アマゾン辺りにいそうな色だな。ん?なんか見た事ある景色…?」 爆笑する赤毛の少女。 茫然自失している銀髪の少年。 「ルカ・ミルダ…?」 「え?」 ルカが身を引く間も無く、空から降って来た闖入者は、長い黒髪、セーラー服の襟と白いスカーフをささっ、と直すと、 「生ルカーーッ!!」 ルカに飛びつき、そのまま押し倒した。合間にぐげ、とカエルのような声が入ったのは、彼女がマティウスの背をローファーのヒールで思い切りふんだからだが。 えと…ここは、グラウンド…、何で僕は空を見ているのでしょうか。 少女は水兵が着るような服を少しちがくして、それはよく似合っていた。長い黒髪がさらさらと僕の頬に落ちてくる。 切れ長の鳶色の瞳に吸い込まれそ… 「ん?」 柔らかいものが口に…?その上温かいものが口内に? 「ふー。堪能すんのはこれからだぜ、ルカ」 あれがキスだと、今ルカは気付いた。ていうか何やら少女はオオカミの目で、彼の上着を脱がしにかかっている。 「え?え?な、なに…」 「オレはレナ。ま、いいから一発ヤろうぜ?んで婚約しよう!オレ、いい仕事すっから痛くないって。」 とても十代の少女と思えない見通しをスラスラと述べると、 「ま、待たんか…」 「あ?なに。馬に蹴られたいかてめぇ?」 マティウス、滂沱の涙。 「OKOK、違う意味でヤるか。小便は済ませたか?神様にお祈りは?部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする用意はOK?」 ルカから離れると、少女ーーレナーーは、慣れた仕草で眼前にシャーペンを構えた。 結論から云えば、イリアもルカも無事で、後はぺんぺん草すら生えないような三人を縛り上げているレナの楽しげな事。 「あんた、知り合いなんでしょ?」 ひそひそ声でイリアがルカに尋ねた。 レナは三人を木に逆さ吊りにしている。 「…全然知らない…」 同じく、ひそひそ声でルカは答えた。 レナは三人の下に焚き火を作り、煙を団扇であおいで燻している。 「あいつ、空から降って来たわよね。あれも転生者?」 僕にわかる訳ないよ、という言葉は飲み込む。 「教会関係者じゃないかなあ…」 「違う。オレは違う世界から来た。」 ひッ、と2人が同時に悲鳴を上げた。レナは燻し責めをしていた筈。いつの間に… 「聖ラクラス学園1年3組、雨宮レナ。ライフワークはゲームとコスプレ。目下TOIに夢中。座右の銘は向かって来たらミナゴロシ。」 どんな座右の銘だ! 「リカルドなんか多分殺しちゃうな、オレ」 くくく、と不穏な笑みを浮かべたレナに、2人は後ずさった。 「これから聖都ナーオスに向かうんだろ?それよりも、一旦捕まった方がいい」 イリアがだんッ!と片足を地面に叩きつける。 「なんで初対面の人間に命令されなきゃなんないのよ!」 「なんで初対面の人間にホットドッグたかってんのよ。」 ぐ、とイリアが言葉に詰まる。 ルカが慌てて止めに入る。 「あ、あれは僕があげたんだ、だから、えーと、レナさん、怒らないで」 コロリとレナはルカを抱きしめて耳元で呟いた 「まあ、ルカがそう云うなら、いいけど。」 男顔負けの色気たっぷりの声に、ルカはオーバーヒートした。 レナはシャーペン絶義を覚えた! 常に覚醒状態で敵が全滅するまで攻撃する。 マティウスはカエルの称号を得た! ルカはオーバーヒートを覚えた! レナは一人称がオレ、という珍しい女の子です。いやつーかオレは高校生の頃、僕が一人称だったし。 BGM/ウェスタンショー |